がらくたディスプレイ

趣味の小説置き場。どこかで誰かが読んでくれると幸せです。

『未観測Heroines #3』 /長編

♯3 最寄りの駅から電車に乗り込み、数駅移動する。ショッピングモールが併設された駅を出ると、人で溢れていた。色々な店や施設が立ち並んでおり、俺たちが住む街に比べれば、はるかに都会だ。 とはいえ、昨日の今日だ。念入な計画やシミュレートなどはもち…

『未観測Heroines #2』 /長編

♯2 綾ノ胡桃(あやのくるみ)――隣の家に住んでいる幼馴染。 派手なというか、わかりやすい美人ではないが、小動物みたいな可愛らしさがある。そして、無害で控えめだ。 天然ぎみで、いつもふわふわとしている。それでいて、根が優しく結構気を使うやつだった…

『未観測Heroines #1』 小説/長編

♯1 雨が降っていた。 都合よく見付けた薄暗い洞穴の中から、森が濡れていくのを、ぼうと眺めていた。 サラサラとした優しい雨音。 土の匂い。 虫の気配。 つないだ手のぬくもり。 ここには、子供しかいない。 僕と、彼女しか。 もうすぐ12月になる。だけど、…

小説一覧〜がらくたのご紹介

このブログは、主に僕が趣味で書いた小説を残していくためのものです。 ・小説一覧 ※各話へは、小説タイトルのタブから

作者が自分で考察してみた〜『太陽と冬の少女』③

3回にわたりお届けしているこのコーナー。 本編が9話に対して、考察が3回目というのは、いよいよバランスがおかしくなってきたという感じですが――というか、なら本編をもっと書き込めよという話ですが、今度こそ最終回です。 とはいえ、すでに本編の解説はほ…

作者が自分で考察してみた〜『太陽と冬の少女』②

前回に引続き、自分で書いた小説を自分で考察してみようという、不思議なコーナーの第2回です。 sokohakage.hatenablog.com ○「フブキ」は実在するのか 旅に出た太陽君は、ついに雪の降る街まで辿り着きます。そして、フブキを探して街を彷徨いますが見つか…

作者が自分で考察してみた〜『太陽と冬の少女』①

こんにちは。 そこはかげです。 今日は前回最後まで書き上げた『太陽と冬の少女』を 「自分で」解説してみようと思います。 sokohakage.hatenablog.com 僕はこれまで、自分で書いたものについて、ここはこういう意味だよ的なことは、言わないようなスタンス…

『太陽と冬の少女 #9』(最終話) /小説/短編/ファンタジー

#9 頬を突つかれる感触で意識が覚醒した。 目を開け、焦点が合った先に、少女がいた。 「フブ……キ?」 ではなかった。左右横に結んだ髪が特徴的な女の子。歳は中学生か高校生か微妙なラインだ。僕は体を起こした。 僕、どうしたんだっけ。いつの間にか、公園…

『太陽と冬の少女 #8』 /小説/短編/ファンタジー

#8 「フブ……キ?」 慌てて立ち上がる。地面に沈み込みそうなくらい重かった体は嘘のように軽くなっていた。 「フブキ……なのか?」 思わずそんな間抜けなことを聞いてしまう。彼女に会うためにここまで頑張ってきたのに、いざ目の前に求めていたものが現れる…

『太陽と冬の少女 #7』 /小説/短編/ファンタジー

#7 自転車を漕いで北に進み、雪の降る地域まで行く。僕の計画は簡単に言えばそんなところだ。 もちろん、1泊2日くらいの小旅行とはいかない。日本縦断とまでは行かないが、それに近いイメージだ。 母は落ち着きなくリビングをうろうろした。うろたえるのも当…

『太陽と冬の少女 #6』 /小説/短編/ファンタジー

#6 ――冬になっても、もうここには来れなくなるんだよ。 そんな、不吉な予言めいたことを言ったフブキは、次の冬、本当に僕の前に姿を現すことはなかった。あの時は、何年後かわからない、みたいな言い回しだったが、実に潔い幕引きだった。 その冬、雪は降ら…

『太陽と冬の少女 #5』 /小説/短編/ファンタジー

#5 「雪だるま?」 というと、雪だるまか――雪の玉を2つ縦に重ねたもの。 記憶の引き出しを探ってみる。 僕がフブキと出会った頃、そう、つまり『子供の頃』だ、彼女に小さな雪だるまをプレゼントされたことがある――が、そのことじゃない。 『僕が作った』雪…

『太陽と冬の少女 #4』 /小説/短編/ファンタジー

#4 春が来た。 一度も学校に行かないまま、学年がひとつ上がった。 進級するためには最低限の出席日数が必要みたいな制約とか、ないのだろうか。そこら辺の仕組みがどうなっているのかは、よくわからない。スマホで調べれば出てくるかもしれないが、そんなに…

『太陽と冬の少女 #3』 /小説/短編/ファンタジー

#3 フブキと名乗る、ちょっと変った女の子と仲良くなったのは昨日のことだ。別れ際「また明日」と言って去っていったフブキは、言葉通り、また今日もやってきた。 彼女は気が付けば僕の部屋の前のベランダにいて、窓をノックした。相変わらず、どうやって2階…

『太陽と冬の少女 #2』 /小説/短編/ファンタジー

#2 「僕を外に?」 外に連れ出す――フブキと名乗った少女はそう言った。 「うん」 余計なお世話だと言い返そうと思ったが、やめておいた。真っ直ぐに僕を見る彼女の目は、本当に純粋な善意で言っているのではないかと思えるほどに、淀みがなかった。 だってそ…

全9話『太陽と冬の少女 #1』 /小説/短編/ファンタジー

#1 陽ノ下太陽(ひのもと たいよう)というのが僕の名前。 中学2年生。 引きこもり。 僕の自己紹介なんて、だいたいこの3語で済んでしまう。 今日も平日の昼間から、学校を休んでテレビゲームをしている。暗い部屋。遮光カーテンで掃き出し窓を覆い、あえ…

『消えた家族 #2(最終話)』 /ホラー

#2 良太が大怪我をしてしまった。 そして、俺の頭に最初に浮かんだのは「妻に怒られる」だ。妻は怒ると、とても怖い。 だから、今回の事故は何としても妻には隠し通さなければならない。良太に怪我をさせてしまったことを知れば、妻は怒り狂うだろう。 もっ…

全2話『消えた家族 #1』 /ホラー

#1 タバコに火を付る。煙を肺に満たし、俺は目を瞑った。鼻から煙を吐き出すと、意識は思考の海に沈んでいった。 ◇ 昔から考え込む癖があった。暇さえあれば、頭の中であれこれ考えている。政治、社会、人間、哲学。考えるテーマはいくらでもあった。そのよ…

『素晴らしき人生をあなたに #9(最終話)』 /なんちゃってSF

#9 悪趣味なイリュージョンみたいだった。 瞬きをする間に咲の胴体が霧のように消え失せ、残った頭部と二本の腕、二本の脚は落下し、地面の上に転がった。人体のパーツが土の上に広がる様子は、発電所の地図記号を思わせた。 「咲!!」 一郎は、バラバにな…

『素晴らしき人生をあなたに #8』 /なんちゃってSF

#8 スクリーンに写っている男は、間違いなく竹林一郎の姿をしていた。 十年前。 人生をやり直そうと小嶋の所属する会社の施設に訪れた、あの日のままの姿だった。 身なりはお世辞にも清潔とは言えない。髪はぼさぼさだし、シャツはしわくちゃだし、襟元は黄…

『素晴らしき人生をあなたに #7』 /なんちゃってSF

#7 初め、何ごとかと思って慌てふためいた。何しろ、突然目の前に女の顔が浮かび上がったのだ。 が、すぐにそれが、スクリーンに映った小嶋の姿であると理解し、状況を把握する。 把握して、そして、不快な気持ちになった。 自分がどこから来て、そしてどう…

『素晴らしき人生をあなたに #6』 /なんちゃってSF

#6 家に帰る前に喫茶店に入った。 一郎はふと心配になり財布の中身を確認したが、杞憂のようだった。この頃は会社員であることに多少なりとも不満があったものだが、少なくとも収入の面に関しては、フリーターと比べるまでもない。 金があることがわかったの…

『素晴らしき人生をあなたに #5』 /なんちゃってSF

#5 一郎はベッドの上で目を覚ました。 記憶の混乱などはなかった。意識は眠る前から直接繋がっていた。注射を打たれたあとに意識を失って、次の瞬間にはここで目覚めたような感覚だ。 辺りを見回す。見覚えのある部屋だった。ここは、二十年以上前、妻そして…

『素晴らしき人生をあなたに #4』 /なんちゃってSF

#4 一郎は、小嶋に渡された地図が示す建物を目指し、山道を進んでいた。 山のふもとまではバスで来ることができたが、そこからは徒歩で進むしかなかった。山道は、特別険しいというわけではなかったが、不摂生により甘やかされた一郎の体には堪えた。 いや、…

『素晴らしき人生をあなたに #3』 /なんちゃってSF

#3 「仮想……世界?」 場違いとも思える言葉に聞こえ、一郎はオウム返しをした。 「そうです」 「何ですか? それは」 「コンピューター内に作られた、現実そっくりな世界のことです」 「よくわからないのですが、ゲームのようなものですか?」 「間違っては…

『素晴らしき人生をあなたに #2』 /なんちゃってSF

#2 「はあ」 こういう者ですと差し出された名刺を見ても、一郎は彼女がどういう人物なのか、まったく想像つかなかった。 「当社の開発した新しいサービスの案内に参りました。少しだけお邪魔させていただいて、説明をさせていただけないでしょうか」 「いや…

全9話『素晴らしき人生をあなたに #1』 /なんちゃってSF

#1 どこで人生を間違えたのだろう。 ある日、コンビニのビニール袋を手に下げ古ぼけたアパートの一室に帰ってきたとき、竹林一郎の脳裏にふとそんな言葉がよぎった。 よぎってしまって、舌打ちをした。 それは、普段考えないようにしていることだった。 考え…

『がらくた #12(最終話)』

#12 トクン……トクン……。 鼓動が響く。 密着したロゼッタの体から、鉄の体に振動が伝わってくる。 人間の心臓の鼓動は、生きた証をその時間その時間に刻みつけるようなものだと思う。 鼓動。 朝も夜も。 夏も冬も。 産まれてからずっと、休むことなく、途切れ…

『がらくた #11』

#11 「ロゼッタ、本当に大丈夫なの?」 パン屋の仕事を休むようになったロゼッタの様子を見に来たエマは、心配そうに言った。 ちなみに、僕の上にはロッキングチェアごとすっぽりと毛布がかけられていた。エマにそれは何かと尋ねられたところ「ゴミよ、ゴミ…

『がらくた #10』

#10 「ねえ、聞いてレオ」 ロゼッタは、家に着くなり僕に話しかけた。 僕はテーブルの上に置かれていた。今の僕は頭部だけなので場所は取らない。ロゼッタは向かい合って椅子に座り、肘をテーブルにつく。それは、お喋り(といっても、ロゼッタが一方的に話…