2021-08-01から1ヶ月間の記事一覧
#4 一郎は、小嶋に渡された地図が示す建物を目指し、山道を進んでいた。 山のふもとまではバスで来ることができたが、そこからは徒歩で進むしかなかった。山道は、特別険しいというわけではなかったが、不摂生により甘やかされた一郎の体には堪えた。 いや、…
#3 「仮想……世界?」 場違いとも思える言葉に聞こえ、一郎はオウム返しをした。 「そうです」 「何ですか? それは」 「コンピューター内に作られた、現実そっくりな世界のことです」 「よくわからないのですが、ゲームのようなものですか?」 「間違っては…
#2 「はあ」 こういう者ですと差し出された名刺を見ても、一郎は彼女がどういう人物なのか、まったく想像つかなかった。 「当社の開発した新しいサービスの案内に参りました。少しだけお邪魔させていただいて、説明をさせていただけないでしょうか」 「いや…
#1 どこで人生を間違えたのだろう。 ある日、コンビニのビニール袋を手に下げ古ぼけたアパートの一室に帰ってきたとき、竹林一郎の脳裏にふとそんな言葉がよぎった。 よぎってしまって、舌打ちをした。 それは、普段考えないようにしていることだった。 考え…