がらくたディスプレイ

趣味の小説置き場。どこかで誰かが読んでくれると幸せです。

01-3 /短編『素晴らしき人生をあなたに』

『素晴らしき人生をあなたに #9(最終話)』 /なんちゃってSF

#9 悪趣味なイリュージョンみたいだった。 瞬きをする間に咲の胴体が霧のように消え失せ、残った頭部と二本の腕、二本の脚は落下し、地面の上に転がった。人体のパーツが土の上に広がる様子は、発電所の地図記号を思わせた。 「咲!!」 一郎は、バラバにな…

『素晴らしき人生をあなたに #8』 /なんちゃってSF

#8 スクリーンに写っている男は、間違いなく竹林一郎の姿をしていた。 十年前。 人生をやり直そうと小嶋の所属する会社の施設に訪れた、あの日のままの姿だった。 身なりはお世辞にも清潔とは言えない。髪はぼさぼさだし、シャツはしわくちゃだし、襟元は黄…

『素晴らしき人生をあなたに #7』 /なんちゃってSF

#7 初め、何ごとかと思って慌てふためいた。何しろ、突然目の前に女の顔が浮かび上がったのだ。 が、すぐにそれが、スクリーンに映った小嶋の姿であると理解し、状況を把握する。 把握して、そして、不快な気持ちになった。 自分がどこから来て、そしてどう…

『素晴らしき人生をあなたに #6』 /なんちゃってSF

#6 家に帰る前に喫茶店に入った。 一郎はふと心配になり財布の中身を確認したが、杞憂のようだった。この頃は会社員であることに多少なりとも不満があったものだが、少なくとも収入の面に関しては、フリーターと比べるまでもない。 金があることがわかったの…

『素晴らしき人生をあなたに #5』 /なんちゃってSF

#5 一郎はベッドの上で目を覚ました。 記憶の混乱などはなかった。意識は眠る前から直接繋がっていた。注射を打たれたあとに意識を失って、次の瞬間にはここで目覚めたような感覚だ。 辺りを見回す。見覚えのある部屋だった。ここは、二十年以上前、妻そして…

『素晴らしき人生をあなたに #4』 /なんちゃってSF

#4 一郎は、小嶋に渡された地図が示す建物を目指し、山道を進んでいた。 山のふもとまではバスで来ることができたが、そこからは徒歩で進むしかなかった。山道は、特別険しいというわけではなかったが、不摂生により甘やかされた一郎の体には堪えた。 いや、…

『素晴らしき人生をあなたに #3』 /なんちゃってSF

#3 「仮想……世界?」 場違いとも思える言葉に聞こえ、一郎はオウム返しをした。 「そうです」 「何ですか? それは」 「コンピューター内に作られた、現実そっくりな世界のことです」 「よくわからないのですが、ゲームのようなものですか?」 「間違っては…

『素晴らしき人生をあなたに #2』 /なんちゃってSF

#2 「はあ」 こういう者ですと差し出された名刺を見ても、一郎は彼女がどういう人物なのか、まったく想像つかなかった。 「当社の開発した新しいサービスの案内に参りました。少しだけお邪魔させていただいて、説明をさせていただけないでしょうか」 「いや…

全9話『素晴らしき人生をあなたに #1』 /なんちゃってSF

#1 どこで人生を間違えたのだろう。 ある日、コンビニのビニール袋を手に下げ古ぼけたアパートの一室に帰ってきたとき、竹林一郎の脳裏にふとそんな言葉がよぎった。 よぎってしまって、舌打ちをした。 それは、普段考えないようにしていることだった。 考え…