がらくたディスプレイ

趣味の小説置き場。どこかで誰かが読んでくれると幸せです。

全62話『未観測Heroines』 各話へのリンク・作品紹介

ブログでちょっとずつ書き進めていた小説『未観測Heroines』。ついに書き終わりました。 思いのほか大作になったので、目次的なものを作りました。 【チャプター】 (プロローグ) #1 #2 #3 #4 #5 (厄災編) #6 #7 #8 #9 #10 #11 #12 #13 #14 #15 #16 #17 #…

『未観測Heroines #62』(最終話) /小説/長編

♯62 光の中で、タマは姿を変えた。 ここは、神様に届く場所。奇跡のひとつやふたつ、起きてもおかしくはない。 ふわふわの長い髪は腰まで届き。 失ったはずの右目も元通りだ。 その姿は、天使のように尊い。 「五可は、これから、今までのことを忘れて、普通…

『未観測Heroines #61』 /小説/長編

♯61 「ハッ、ハッ」 息を切らして、アスファルトを蹴る。 そろそろ夕方になろうかという時間帯。あまり遅くなると、両親が心配する。俺は、小学2年生の子供だった。 ――旅行から帰ると、タマの姿が見当たらなかった。押し入れで寝てるのかとも思ったが、いな…

『未観測Heroines #60』 /小説/長編

♯60 朝から雪が降っていた。 ランドセルを背負った子どもたちは、明日からの予定に思いを馳せ、みなどこかそわそわしていた。 終業式のあと。教室への移動中に、学校を抜け出した。 神社の近くの大きな川の橋。そこから少し離れたところで、待ち伏せる。 ダ…

『未観測Heroines #59』 /小説/長編

♯59 綾ノ見来。 語るほどのものでもない俺の人生だが、あえてというなら、そこになくてはならない名前。いなくてはならない人物。 隣の家に住む幼馴染。 小さい頃から、まるで、家族のように一緒に育ち。 当たり前のようにお互いに好きになり。 そして。 タ…

『未観測Heroines #58』 /小説/長編

♯58 この俺、伊津五可はタイムリーパーである。 そういうと、いかにも漫画か何かの前口上みたいで格好いいが、実際制限が多くそんなに便利な能力でもない。 まず、タマという猫耳の相方の力を借りなければならない(よく考えれば能力という言い方をするなら…

『未観測Heroines #57』 /小説/長編

♯57 「お前がいいって、それは、つまり……どういうことにゃ?」 首を傾げる猫耳少女。いまいち伝わっていないらしい。 「いや、だから、誰を選ぶかって話だったろ。正直、どの選択肢もピンと来なかったんだ」 「そうなのか?」 あんなに大好きだった幼馴染。…

『未観測Heroines #56』 /小説/長編

♯56 「はあ……永遠の愛……ねえ」 いまいち、理解しづらい。何を言っているんだ、この猫耳は。 「つまり、五可の選んだ女の子と末永くお幸せに結ばれる券、ゲットにゃ!」 「いや、ぜんぜん展開についていけていないんだけど……じゃあ例えばにゃ――」 「語尾が移…

『未観測Heroines #55』 /小説/長編

sokohakage.hatenablog.com ♯55 「子供の頃、私はこの子にあまり良い感情を持っていなかった」 寝間着姿の見来はひざに乗せた緩慢な動きの猫を撫でながら言った。髪からはシャンプーの匂いが漂っていた。 二人、縁側に並んで座り、空を眺める。星がとても綺…

『未観測Heroines #54』 /小説/長編

♯54 掴んだ手を離さないのは、いいとして―― 「お、おおお」 間一髪、『手首』を握り止めることに成功したあとは、見来のほうから、俺の右腕にしがみつく、格好となる。 自殺しようってわけじゃないので、当然だ。 左腕はというと、うまい具合に木の根っこを…

『未観測Heroines #53』 /小説/長編

♯53 胡桃の母に自転車を借りて、無人駅へ舞い戻る。使えるものが1台しかなかったので、後ろに胡桃を乗せて俺が自転車を漕ぐことになる。ニケツというやつだ。 駅にはかろうじて1台タクシーがとまっていた。 「僕が呼んだに決まっているだろう、馬鹿め」 胡桃…

『未観測Heroines #52』 /小説/長編

♯52 好意を寄せていた? って言ったよな――いや、胡桃はときどき難しい言葉を使うから、勘違いして恥をかかないようにしよう。 「それはそれとして――」 やはり、重要な話ではなかったらしく、胡桃は急ぐように話を切り替える。 「とりあえずは今、僕の母方の…

『未観測Heroines #51』 /小説/長編

♯51 ◇ 雨。 雨が降っている。 薄暗い洞窟の中から外を見ている。 しとしとしとしとしと。 「このままおうちに帰れなかったらどうしよう」 隣に座っている女の子の声――震えている。 「そんなこと絶対ないよ。パパやママが迎えに来てくれる。絶対に」 「でも………

『未観測Heroines #50』 /小説/長編

♯50 「そう、僕が死んだ理由だ。見来は事故死で構わないさ。事故で命を落とすなんて日常茶飯事のことだ。この世界ではね。でも、数日のうちに立て続けとなると、どうだろう。遠く離れた2人が、つられて事故に遭うなんて、そんな奇妙なことがあるものか。量子…

『未観測Heroines #49』 /小説/長編

♯49 「この僕のことをイマジナリーフレンドと思っていたなんて……君の阿呆ぶりは相変わらずだね」 俺のこれまでの冒険譚を聞き終えた胡桃は、ため息混じりにそう言った。罵倒する言葉がひどく懐かしく、涙が出そうになる。 胡桃の部屋。おっさんは、追い出さ…

『未観測Heroines #48』 /小説/長編

♯48 □11月26日(土) 滞りなく胡桃の葬儀が執り行われ、無事俺の幼馴染が骨になったあと、俺は寄り道することなく帰宅し、自分の部屋に直行する。 「タマ、いるか?」 呼びかけると、もそもそと押し入れから、タマが這い出てきた。 「にぁあ」 包帯で片目を…

『未観測Heroines #47』 /小説/長編

♯47 「それこそ! 本当にどうして今更! だよ!」 今度こそ。 怒りをあらわにする。 「胡桃……」 「今更! 何でそんなこと言うんだよ!」 俺の記憶の限り、こんなに取り乱す胡桃は見たことがない。俺のあてにならない記憶の中では―― 「忘れようって、言ってく…

『未観測Heroines #46』 /小説/長編

♯46 脳内に映し出される、子供の頃の風景。 記憶の棚の奥深くから漏れ出た、ワンシーン。 そこは、頑なに閉じられていた部分。封印されていた核心部。 目の前に幼い日の胡桃が――いた。 向き合う俺は、彼女を問い詰めていた。 「ふ、ふん。そのくらいで、わた…

『未観測Heroines #45』 /小説/長編

♯45 俺は馬鹿だった。 なまじ問題を先送りできる状況だったから、それに甘んじていた――もっと真剣に問題に取り組んでいれば、タマがこんな痛々しい姿になることはなかったかもしれないのに。 「これまで、さんざん神様神様と言っていたけど、それは便宜上そ…

『未観測Heroines #44』 /小説/長編

♯44 ■11月18日(金) 4日戻って、金曜日。押し入れで眠りこけている(と思われる)タマを置いて、俺は学校に向かった。もはや行く意味があるのか甚だ疑問だし、実際にサボったこともあったのだけれど、それはそれで、親がうるさかったりする。胡桃も心配す…

『未観測Heroines #43』 /小説/長編

♯43 思えばそれは、結構早い段階でB世界の胡桃が指摘していたことだった。 2022年11月23日午後5時30分に綾ノ胡桃が死亡するのが世界A。2022年11月26日午前11時45分に死亡するのが世界Bだと捉えるべきだと。 そんなことを言っていた。 そして、そのあたりに…

『未観測Heroines #42』 /小説/長編

♯42 推理可能――と。 当ゲームの案内人は、そう宣言した。 そして、どかっと、ベッドの上に座りなおす。居心地が良い自分のベッドの上は占領されてしまったので、仕方なく机のほうの椅子に腰をおろす。 「これまで得た情報で、君はもう真実に辿り着くことがで…

『未観測Heroines #41』 /小説/長編

♯41 胡桃と一緒に過ごす日々は、これまでの人生のどんなときよりも輝いていた。 きらめいて、ときめいて――だけれど、どこか作り物めいていた。11月18日から11月22日の期間だけを切り取ったドキュメンタリーフィルムのように。 俺たちはもう、閉じた世界を生…

『未観測Heroines #40』 /小説/長編

♯40 □11月20日(日) ベッドから床に降り、机の上に置かれたデジタル時計で時刻を確認する。 午前7時。 俺は、身支度を整え、玄関を出た。ひんやりとした空気が肌を射す。澄んだ青空の下、すぐ隣の住宅の敷地に侵入し、インターホンを鳴らすことなく玄関をく…

『未観測Heroines #39』 /小説/長編

♯39 ◇ 夢。 脳みそを操作されて、記憶がオート再生を始める。 幕が上がったように、視界が開けた。眼下には街が広がっている。絶景に感動するほど情緒豊かではなかった子どもの頃の俺でも、自分の家を探してみようと思い付くくらいには、好奇心はあった。 「…

『未観測Heroines #38』 /小説/長編

♯38 胡桃との逢瀬を切り上げ、部屋に戻る。もう、真夜中と言ってよい時間帯だ。ベッドの上には少女が、鎮座していた。 天使の羽を思わせる、軽やかで長い髪から、猫耳を生やした女の子。いや、当然髪から生えているなどというのは、おかしな表現で、それが直…

『未観測Heroines #37』 /小説/長編

♯37 「つまりね。私が死ぬ前に、五可は過去に戻ればいいんだよ。そうすれば私は死なないし、五可はもう苦しまなくていい」 胡桃は、キラキラした目を俺に向けながら、そんな目眩がしそうな提案をした。 「でも、戻れるのは四日前の朝だ。四日たつと、また、…

『未観測Heroines #36』 /小説/長編

♯36 □11月22日(火) 「あの頃は、当たり前にいつまでも一緒だと思ってたけど――」 夜の公園に二人。 外灯の光が淡く照らす中、胡桃は丁寧に言葉を紡いでいく。 「いつのまにか、私達は高校生で、高校を卒業すれば大学に行って、大人になって……これからきっと…

『未観測Heroines #35』 /小説/長編

♯35 B世界において俺が最初に死亡したのは、駅で胡桃と電車を待っていたとき――11月23日水曜日の夕方のことだ。 そして、注目すべきはその、ひとつ前のA世界。確か、俺は、胡桃と一緒に、看板か何かの下敷きになって事故死した。 それは、同じく、11月23日…

『未観測Heroines #34』 /小説/長編

♯34 ■11月22日(火) 自分のベッドで目覚めた俺は、『いつものように』机の上の置き時計を確認したあと、身支度を始めた。タマは、押し入れの中で寝ているのだろう。 日時は、4日戻って11月22日の午前7時。 火曜日、平日。学生である俺は、学校に登校しなけ…