がらくたディスプレイ

趣味の小説置き場。どこかで誰かが読んでくれると幸せです。

2022-01-01から1年間の記事一覧

『未観測Heroines #31』 /小説/長編

♯31 □11月22日(火) 「ごめんね、急に呼び出したりして」 公園のひんやりとした空気を伝って俺の耳に届いた胡桃の声は、とても澄んでいた。 深い闇の中、電灯で照らされた胡桃の姿は、スポットライトを浴びた役者のように、綺麗で神秘的だった。 「五可に、…

『未観測Heroines #30』 /小説/長編

♯30 □11月23日(水) 何だよ、これ。 悲しいとか、悔しいとか、そんな当たり前の感情よりも、まず、呆れてしまった。 はりつけにされた、変わり果てた幼馴染の姿を見て、俺は木々の間で立ち尽くす。 「はは」 もはや笑えてくる。だって冗談みたいだ。まるで…

『未観測Heroines #29』 /小説/長編

♯29 □11月19日(土) 「ハァ!!」 勢いよく上半身を起こす。 悪夢を見ていたようだ。ここはオレの部屋で、ベッドには温もりがあった。 酷い夢。 眼前に迫る列車の先頭。 ヒヤリとした死の感触。 「ハア、ア――」 しっかりしろ、俺。 あれは夢なんかじゃない―…

『未観測Heroines #28』 /小説/長編

♯28 俺は列車と衝突し、即死した。 じゃあ、そう語っている『俺』は何者なのかという話だが、不思議とそれほど違和感はなかった――空中に漂い、惨状を俯瞰して見ている俺の残滓が、思考の真似事を続けているだけだろう。 損壊し、断絶された肉体は広範囲に飛…

『未観測Heroines #27』 /小説/長編

♯27 ■11月23日(水) 今日は祝日なので学校は休みだった。 11月23日、勤労感謝の日――俺はこの日付を、生涯忘れることはできないだろう。 胡桃とは昼前に駅で待ち合わせた。 「落ちないように、気をつけろよ」 胡桃と駅のホームで並んで立って電車を待ってい…

『未観測Heroines #26』 /小説/長編

♯26 ■11月21日(月) こちらの世界で目覚め、こちらの世界の胡桃の部屋に突撃し、そしてどういうことか1週間の期限付きで付き合う(誤解なく言っておくと、ここで言う『付き合う』とは、男女交際のことだ)ことになったのが土曜日のこと。 翌日、日曜日は適…

『未観測Heroines #25』 /小説/長編

♯25 胡桃の部屋に入ってから、どれくらい時間が経過しただろうか。不思議ともう1ヶ月くらい話し込んでいるような気がしていた。 というと大げさだけれども、それだけ、話し込んでいたということなのだろう。でも、一方で、本来の目的を見失っている気がする…

『未観測Heroines #24』 小説/長編

#24 ある実験がある。 物理学の量子力学という分野での話だ。ちなみに、俺の知識は漫画なんかが元なので、正確さは怪しいということだけ先に言っておく。 実験の内容はこうだ。 まず、箱の中に猫を入れ、中から開かないように蓋をする。蓋を閉めてしまえば、…

『未観測Heroines #23』 小説/長編

♯23 「もう一度確認しておくけど、これから話すのはあくまで君の話が事実だという想定の元での僕の考えだ――2つの世界とは、つまり、並行世界みたいなものだね。君は時間を遡りながら、2つの世界を行き来していると、ひとまずは考えるべきだ」 と、胡桃は平然…

『未観測Heroines #22』 小説/長編

♯22 「とうさーん」胡桃は心底冷たい目線を階下の俺に送った。「こいつ頭がおかしくなったようだ」 「そのようだな」 二人に呆れられる。 当然と言えば当然。さすがに聞き方が直球すぎたか。 「が、興味がある。僕の部屋に来い。話を聞こう」 「「えー!?」…

『未観測Heroines #21』 小説/長編

♯21 ■11月19日(土) 瞼を開く。 俺の部屋の天井だ。 『あれから』、どれくらいの時間がたった? 違う。時間は経過してない。戻ったはずだ。だって、俺はタイムリーパーなのだから。この部屋で目覚めたということは、そういうことだ。 時計を確認しようと首…

『未観測Heroines #20』 小説/長編

♯20 頭がグワングワンしてる。 不思議と、痛みはない。 どうなった? 落ちてきたのは何だ? 看板か何か? わからないが、確かに潰された。 凶悪な重量の落下物に。 よな? 記憶が飛んでる。 いや、痛い。 急に神経が接続された。 とてつもなく、痛い。 とて…

『未観測Heroines #19』 小説/長編

#19 日が傾き始める。 夕方。俺と胡桃は自分たちの家へ向けて、大通り沿いを歩いていた。胡桃の足取りは軽く、楽しかった今日の余韻を残している。 ――そんな彼女はもうすぐ、『運命』に殺される。 本当は、屋内でその時を迎えたかった。死に方にはパターンが…

『未観測Heroines #18』 小説/長編

♯18 □11月23日(水) 朝日をまぶた越しに感じた。 俺はベッドから体を起こすと、すぐに机の上のデジタル時計を確認した。 午前7時きっかり。起床時間はいつもどおり。日にちは11月23日水曜日――認識と『ずれ』はない。 朝起きてすぐに時計を確認するのは以前…

『未観測Heroines #17』 小説/長編

♯17 ――夢。 ――これは、夢? いや、もういい加減、気が付いている。 これは、ただの夢なんかじゃない。 夢の中にいながら、自分が何者で今がいつなのか、ちゃんとわかっている。 体が勝手に動き、口が勝手に言葉を発する。自由にならない体の中にいながら、意…

『未観測Heroines #16』 小説/長編

#16 胡桃の(くりくりとした可愛らしい)瞳が、猫耳の少女――タマを捉えている。 気がするのだが、どうだろう。だって、タマの説明では、俺以外の人間には彼女の姿は見えないということだったから……。 もしかしたら、偶然タマの後方の何かを見ているだけかも…

『未観測Heroines #15』 小説/長編

#15 「つまり、俺がお前に首を喰いちぎられて過去に戻るたびに、胡桃の性格が入れ替わるということだな」 と言うと、俺のベッドの上を我が物顔で占拠する猫耳女は、不服そうな顔を浮かべた。 あれから。 11月22日の朝にタイムリープした俺は、いつものように…

『未観測Heroines #14』 小説/長編

#14 11月26日、土曜日。 午前11時45分。 綾ノ胡桃、列車との接触事故により、死亡。 ◇ 俺は逃げるように駅を後にした。 いや、言葉そのまま、逃げた。 現実から。 悪夢から。 どうやったら逃られるかもわからず、滅茶苦茶に走る。でたらめな呼吸。涙と鼻水で…

『未観測Heroines #13』 小説/長編

#13 「で、僕はいったい、どうやって死ぬんだ?」 駅前の雑踏の中、道行く人が聞いたらどう思うだろうというようなことを、胡桃は平然と口にした。 「僕としたことが、一番重要なことを聞いていなかった。一応用心しておくとしよう。万が一、君の頭がオカシ…

『未観測Heroines #12』 小説/長編

#12 雨は降り止まない。 だんだんと空が暗くなってきた。 薄暗い洞窟に差し込んでいた、わずかに僕たちを安心させてくれていた光が、弱まっていく。 もうすぐ夜になる。 夜になると真っ暗になる。 だってここには電気がないから。 そんなことに、今更気が付…

『未観測Heroines #11』 小説/長編

♯11 胡桃からの電話――スマホに表示されている情報からそう判断できる。 俺は少しだけ考えて応答した。 「胡桃か?」 「……」 「……もしもし?」 「……」 「胡桃……じゃないのか?」 「いや、僕だ」 耳に馴染む聞き慣れた声。ただし、記憶のものよりトーンはやや…

『未観測Heroines #10』 /長編

♯10 人のベッドの上でくつろいでいた少女は、ある種のコスプレ喫茶でよく言われるフレーズで、俺を出迎えた。部屋の小型のテレビの電源が入れられており、夕方の情報番組が流れていた。 彼女の名前は――よくよく考えれば聞いていない。耳には獣のような耳が生…

『未観測Heroines #9』 /長編

♯9 今の気持ちをどう表現しようか。ぶっ飛んだ状況に混乱しているとかいろいろあるが、やはり、悔しいというのが、本当のところだろう。俺を好いてくれていた幼なじみに相手にされなくなった喪失感から来る悔しさというか。 だから、無理筋とわかっていなが…

『未観測Heroines #8』 /長編

♯8 「んん? まだいたのか、五可。どうつもりなのか知らないが、早く出てってくれ。まさかとは思うが、僕の寝姿だけじゃ飽き足らず、着替えまで鑑賞していくつもりでなないだろうね」 とかなんとか言われて、胡桃に部屋を追い出される。 饒舌な割に、平坦で…

『未観測Heroines #7』 /長編

♯7 ■11月22日(火) 「馬鹿な……」 記憶は、部屋に突然現れた名前も知らない猫耳少女に首元を噛みつかれたところから、直接つながっている。 その記憶では、日付は11月26日だった。今がその翌日の朝だとしても11月27日。まさか、一年近くも寝ていたわけではあ…

『未観測Heroines #6』 /長編

♯6 「出ていってくれ」 今までの冗談のようなやりとりとは違う声のトーンの冷たさに、自分で驚く。でも、率直に頭にきたのは確かだった。 怒りが伝わっていないのだろうか。猫耳の少女は飄々とした様子だ。馬鹿にするように(と感じるだけかもしれないが)、…

『未観測Heroines #5』 /長編

♯5 「爪もあるにゃ」 と、その闖入者は空中を握るように指を曲げながら言った――俺が、彼女の獣のような耳と尻尾をまじまじと観察していることを受けての言葉だろう。 『にゃ』という接尾語から推察するに、獣のパーツは『猫』のそれなのだろう。そして、それ…

『未観測Heroines #4』 /長編

♯4 「そんなことは当たり前だよ。相変わらず五可は阿呆だな」 夢。 夢を見ていた。 子供の頃の、夢。 或いは、記憶。 5歳かそこらとは思えない口調のダレカは、確かに子供の頃の胡桃と同じ顔をしていた。 「僕とあの子は一心同体、コインの裏と表のようなも…

『未観測Heroines #3』 /長編

♯3 最寄りの駅から電車に乗り込み、数駅移動する。ショッピングモールが併設された駅を出ると、人で溢れていた。色々な店や施設が立ち並んでおり、俺たちが住む街に比べれば、はるかに都会だ。 とはいえ、昨日の今日だ。念入な計画やシミュレートなどはもち…

『未観測Heroines #2』 /長編

♯2 綾ノ胡桃(あやのくるみ)――隣の家に住んでいる幼馴染。 派手なというか、わかりやすい美人ではないが、小動物みたいな可愛らしさがある。そして、無害で控えめだ。 天然ぎみで、いつもふわふわとしている。それでいて、根が優しく結構気を使うやつだった…