『未観測Heroines #23』 小説/長編
♯23
「もう一度確認しておくけど、これから話すのはあくまで君の話が事実だという想定の元での僕の考えだ――2つの世界とは、つまり、並行世界みたいなものだね。君は時間を遡りながら、2つの世界を行き来していると、ひとまずは考えるべきだ」
と、胡桃は平然と――昨日食べた夕飯のメニューを言うように平然と、言った。
平行世界。
考えもしなかったってわけじゃないが、正直、さすがに、飛躍しすぎだと思った。
「並行世界っていうのは……さすがに話が壮大すぎると思う」
よくよく考えればタイムリープなどと言っている段階で、かなり突拍子もない話をしているのだが、胡桃の性格が入れかわるとかも、かなり奇抜な話なのだが、それでも、個人の周辺の話だ。
世界がふたつある? スケールがでかすぎる。
「ああ。そのほうがセンスがいいだろう?」
「センス――なのか? もっと、こう論理的に導き出された考えじゃないのか?」
「センスだよ、こういうのは。状況を理解するためには、仮説と検証を繰り返していくわけだけど、筋の悪い仮説など、いくら立てたところで、いくら検証したところで、真実には近づけない。論理というのはそのあとに来るんだ」
「……」
「そして、世界が2つあると考えたほうが良いという理由は、一応言語化できる。それはそのほうがシンプルに考えることができるからだ」
「シンプル?」
「僕の中にもう一人僕がいて? 性格が入れかわって、合わせるように周囲の状況も変化して? そんな複雑なことを考える必要はない。それより、世界が2つあって、五可が死ぬたびに過去に戻りながら、それらを行き来していると考えたほうが自然だろう」
並行世界なんて、荒唐無稽なファンタジーくらいに思っていたが、胡桃にとっては、そのほうが自然なのか。
しかし、なるほど。少し頭の中が整理された気がする。
「確かに……そのほうが、正しいような気がするな」
「いや、シンプルな仮説が正しいとは限らないけどね。しかし、そう考えたほうが思考が楽だろうという話だ」
「楽?」
「どちらが正解かわからないのなら、よりシンプルな仮説を選んでおくといい。捉え方、説明のし方が違うだけで、実はどちらも間違っていないなんてこともあるしね。いずれにせよ、物事をシンプルに捉えることは、脳の負担を軽くすることができる。そして考えるべきことが明確になる」
胡桃の言うとおり、なのだろう。
情報が整理され、思考が進む。俺の脳みそは、整理された情報と、過去の記憶とを結びつけた。
そして閃く。
新しい仮説というやつだ。
「なるほど。俺が死ぬたびに目覚めるのが別の世界なのだとするなら、こういう考え方もできるんじゃないか?」
「言ってみろ」
「俺が死に、そしてタマの力を借りて過去に戻る。そのとき、俺が世界を『観測』することによって、世界の姿が定まる」
「ほう」胡桃はニヤニヤと笑った。「つまり、どういうことだ?」
「俺の知っている胡桃のいる世界Aと、俺にとってはまるで人格が変わったように見える胡桃――お前のいる世界B。それらが重なり合った状態のものが、俺が時間を遡って観測することによって、いずれかひとつの世界に決定するんだ」
その観測する『目』をくれるのが、タマの役割なのだ。きっと。
「なるほどなるほど。五可の言いたいことはだいたいわかるぞ。しかし、今度は『観測問題』とは。ふふ。いよいよ中二病だな。しかしだ五可、僕はこう思う。その思考は、『まるでなっちゃいない』」