#7 初め、何ごとかと思って慌てふためいた。何しろ、突然目の前に女の顔が浮かび上がったのだ。 が、すぐにそれが、スクリーンに映った小嶋の姿であると理解し、状況を把握する。 把握して、そして、不快な気持ちになった。 自分がどこから来て、そしてどう…

#6 家に帰る前に喫茶店に入った。 一郎はふと心配になり財布の中身を確認したが、杞憂のようだった。この頃は会社員であることに多少なりとも不満があったものだが、少なくとも収入の面に関しては、フリーターと比べるまでもない。 金があることがわかったの…

#5 一郎はベッドの上で目を覚ました。 記憶の混乱などはなかった。意識は眠る前から直接繋がっていた。注射を打たれたあとに意識を失って、次の瞬間にはここで目覚めたような感覚だ。 辺りを見回す。見覚えのある部屋だった。ここは、二十年以上前、妻そして…