がらくたディスプレイ

趣味の小説置き場。どこかで誰かが読んでくれると幸せです。

2021-01-01から1年間の記事一覧

『太陽と冬の少女 #6』 /小説/短編/ファンタジー

#6 ――冬になっても、もうここには来れなくなるんだよ。 そんな、不吉な予言めいたことを言ったフブキは、次の冬、本当に僕の前に姿を現すことはなかった。あの時は、何年後かわからない、みたいな言い回しだったが、実に潔い幕引きだった。 その冬、雪は降ら…

『太陽と冬の少女 #5』 /小説/短編/ファンタジー

#5 「雪だるま?」 というと、雪だるまか――雪の玉を2つ縦に重ねたもの。 記憶の引き出しを探ってみる。 僕がフブキと出会った頃、そう、つまり『子供の頃』だ、彼女に小さな雪だるまをプレゼントされたことがある――が、そのことじゃない。 『僕が作った』雪…

『太陽と冬の少女 #4』 /小説/短編/ファンタジー

#4 春が来た。 一度も学校に行かないまま、学年がひとつ上がった。 進級するためには最低限の出席日数が必要みたいな制約とか、ないのだろうか。そこら辺の仕組みがどうなっているのかは、よくわからない。スマホで調べれば出てくるかもしれないが、そんなに…

『太陽と冬の少女 #3』 /小説/短編/ファンタジー

#3 フブキと名乗る、ちょっと変った女の子と仲良くなったのは昨日のことだ。別れ際「また明日」と言って去っていったフブキは、言葉通り、また今日もやってきた。 彼女は気が付けば僕の部屋の前のベランダにいて、窓をノックした。相変わらず、どうやって2階…

『太陽と冬の少女 #2』 /小説/短編/ファンタジー

#2 「僕を外に?」 外に連れ出す――フブキと名乗った少女はそう言った。 「うん」 余計なお世話だと言い返そうと思ったが、やめておいた。真っ直ぐに僕を見る彼女の目は、本当に純粋な善意で言っているのではないかと思えるほどに、淀みがなかった。 だってそ…

全9話『太陽と冬の少女 #1』 /小説/短編/ファンタジー

#1 陽ノ下太陽(ひのもと たいよう)というのが僕の名前。 中学2年生。 引きこもり。 僕の自己紹介なんて、だいたいこの3語で済んでしまう。 今日も平日の昼間から、学校を休んでテレビゲームをしている。暗い部屋。遮光カーテンで掃き出し窓を覆い、あえ…

『消えた家族 #2(最終話)』 /ホラー

#2 良太が大怪我をしてしまった。 そして、俺の頭に最初に浮かんだのは「妻に怒られる」だ。妻は怒ると、とても怖い。 だから、今回の事故は何としても妻には隠し通さなければならない。良太に怪我をさせてしまったことを知れば、妻は怒り狂うだろう。 もっ…

全2話『消えた家族 #1』 /ホラー

#1 タバコに火を付る。煙を肺に満たし、俺は目を瞑った。鼻から煙を吐き出すと、意識は思考の海に沈んでいった。 ◇ 昔から考え込む癖があった。暇さえあれば、頭の中であれこれ考えている。政治、社会、人間、哲学。考えるテーマはいくらでもあった。そのよ…

『素晴らしき人生をあなたに #9(最終話)』 /なんちゃってSF

#9 悪趣味なイリュージョンみたいだった。 瞬きをする間に咲の胴体が霧のように消え失せ、残った頭部と二本の腕、二本の脚は落下し、地面の上に転がった。人体のパーツが土の上に広がる様子は、発電所の地図記号を思わせた。 「咲!!」 一郎は、バラバにな…

『素晴らしき人生をあなたに #8』 /なんちゃってSF

#8 スクリーンに写っている男は、間違いなく竹林一郎の姿をしていた。 十年前。 人生をやり直そうと小嶋の所属する会社の施設に訪れた、あの日のままの姿だった。 身なりはお世辞にも清潔とは言えない。髪はぼさぼさだし、シャツはしわくちゃだし、襟元は黄…

『素晴らしき人生をあなたに #7』 /なんちゃってSF

#7 初め、何ごとかと思って慌てふためいた。何しろ、突然目の前に女の顔が浮かび上がったのだ。 が、すぐにそれが、スクリーンに映った小嶋の姿であると理解し、状況を把握する。 把握して、そして、不快な気持ちになった。 自分がどこから来て、そしてどう…

『素晴らしき人生をあなたに #6』 /なんちゃってSF

#6 家に帰る前に喫茶店に入った。 一郎はふと心配になり財布の中身を確認したが、杞憂のようだった。この頃は会社員であることに多少なりとも不満があったものだが、少なくとも収入の面に関しては、フリーターと比べるまでもない。 金があることがわかったの…

『素晴らしき人生をあなたに #5』 /なんちゃってSF

#5 一郎はベッドの上で目を覚ました。 記憶の混乱などはなかった。意識は眠る前から直接繋がっていた。注射を打たれたあとに意識を失って、次の瞬間にはここで目覚めたような感覚だ。 辺りを見回す。見覚えのある部屋だった。ここは、二十年以上前、妻そして…

『素晴らしき人生をあなたに #4』 /なんちゃってSF

#4 一郎は、小嶋に渡された地図が示す建物を目指し、山道を進んでいた。 山のふもとまではバスで来ることができたが、そこからは徒歩で進むしかなかった。山道は、特別険しいというわけではなかったが、不摂生により甘やかされた一郎の体には堪えた。 いや、…

『素晴らしき人生をあなたに #3』 /なんちゃってSF

#3 「仮想……世界?」 場違いとも思える言葉に聞こえ、一郎はオウム返しをした。 「そうです」 「何ですか? それは」 「コンピューター内に作られた、現実そっくりな世界のことです」 「よくわからないのですが、ゲームのようなものですか?」 「間違っては…

『素晴らしき人生をあなたに #2』 /なんちゃってSF

#2 「はあ」 こういう者ですと差し出された名刺を見ても、一郎は彼女がどういう人物なのか、まったく想像つかなかった。 「当社の開発した新しいサービスの案内に参りました。少しだけお邪魔させていただいて、説明をさせていただけないでしょうか」 「いや…

全9話『素晴らしき人生をあなたに #1』 /なんちゃってSF

#1 どこで人生を間違えたのだろう。 ある日、コンビニのビニール袋を手に下げ古ぼけたアパートの一室に帰ってきたとき、竹林一郎の脳裏にふとそんな言葉がよぎった。 よぎってしまって、舌打ちをした。 それは、普段考えないようにしていることだった。 考え…

『がらくた #12(最終話)』

#12 トクン……トクン……。 鼓動が響く。 密着したロゼッタの体から、鉄の体に振動が伝わってくる。 人間の心臓の鼓動は、生きた証をその時間その時間に刻みつけるようなものだと思う。 鼓動。 朝も夜も。 夏も冬も。 産まれてからずっと、休むことなく、途切れ…

『がらくた #11』

#11 「ロゼッタ、本当に大丈夫なの?」 パン屋の仕事を休むようになったロゼッタの様子を見に来たエマは、心配そうに言った。 ちなみに、僕の上にはロッキングチェアごとすっぽりと毛布がかけられていた。エマにそれは何かと尋ねられたところ「ゴミよ、ゴミ…

『がらくた #10』

#10 「ねえ、聞いてレオ」 ロゼッタは、家に着くなり僕に話しかけた。 僕はテーブルの上に置かれていた。今の僕は頭部だけなので場所は取らない。ロゼッタは向かい合って椅子に座り、肘をテーブルにつく。それは、お喋り(といっても、ロゼッタが一方的に話…

『がらくた #9』

#9 人は人に依存していかざるを得ない。 それは、いい意味でも悪い意味でもだ。意地悪な人に貶められることもあれば、良い人に救われることもある。エマとの出会いは後者だった。 「良かったら、うちで働いてはどうかしら? ちょうど従業員が辞めたところで…

『がらくた #8』

#8 「いったい、どういうこと!?」 人の往来がある通りで、人目もはばからず、ロゼッタは不満を空中にぶつけた。柵の向こうには海が広がっている。潮騒が嘲笑しているように聞こえた。 「確かにお金はないけれど……」 勢いがなくなる。 通行人から部屋を貸し…

『がらくた #7』

#7 ◇ ベッドの中で朝を迎えるのは初めてのことだった。 隣で寝息をたてていたロゼッタは、窓から差し込んできた朝日を瞼越しに感じ、目を覚ます。 「おはよう、レオ」 僕の存在を確認すると、安心したように囁く。ロゼッタは昨晩、頭部だけになった僕を抱き…

『がらくた #6』

#6 僕はまた、ここに戻ってきた。 森の奥の、村人たちが要らなくなったゴミを捨てていく場所。 ゴミ山は数年前より大きくなっていた。当たり前だ。誰かがゴミを回収しに来ているわけではないので、増える一方なのである。 燃やすでもなく、埋めるでもなく、…

『がらくた #5』

#5 ◇ 「レオとのことはママには内緒よ」 僕は、もう何年も前の日のことを思い出していた。ロゼッタがまだ幼かった頃の話だ。 「私とレオが恋人同士であることをママが知ったら、きっと私とレオを引き離そうとすると思うの」 ロゼッタには悪いが、そうなった…

『がらくた #4』

#4 ロゼッタの母親がずっと僕のことを疎ましく思っていたのは間違いない。 もう何年も前、ロゼッタが僕をゴミ捨て場から拾ってきて家に置いておくと言い出したときは、すぐにその変な遊びは飽きてしまう、飽きたら捨てればいいと考えていただろう。が、いつ…

『がらくた #3』

#3 新しい家での日々が始まった。人型をしているというだけのガラクタに日々も何もあったものかと思われるかもしれないが、ゴミ捨て場と比べると、気分がまるで違う。 それに、たとえ一方的だったとしても、話しかけてくれる人がいるというのは、嬉しいこと…

『がらくた #2』

#2 30分ほど女の子に引きずられたあと、彼女の家に到着した。大きな三角屋根が特徴的な家だ。 女な子は体重を後ろにかけながら木製の扉を引っ張った。ぎいと重苦しい音をたてて扉が開く。 「どーぞ」 女の子はあくまで話しかける。物言わぬ、このガラクタに…

全12話『がらくた #1』

#1 ある日、僕は森の奥に連れてこられた。 その一画には、ガラクタの山ができていた。壊れた家具や鉄くずなど、役に立たなそうなものが山積している。ここはきっとガラクタを置いておく場所なのだろう。 村の青年たちは、協力して僕を抱え、山の上に放った。…

全1話『犬の○○○』 /ホラー?

学校の帰り道。 僕はサトルと並んで歩いていた。 彼と家の方向が同じであることは以前からわかっていたが、今までは何となくタイミングが合わなかった。しかし、最近はサトルと一緒に下校することが度々あった。 僕はサトルについて、ひとつどうしても気にな…