『太陽と冬の少女 #6』 /小説/短編/ファンタジー
#6
――冬になっても、もうここには来れなくなるんだよ。
そんな、不吉な予言めいたことを言ったフブキは、次の冬、本当に僕の前に姿を現すことはなかった。あの時は、何年後かわからない、みたいな言い回しだったが、実に潔い幕引きだった。
その冬、雪は降らなかった。
季節は巡り、春になった。
僕の人生にとって、フブキという友達の存在は、唯一の心の拠り所だった。そして、その拠り所を失った僕は、今まで目を逸らしてきた事実と向き合うことになった。
僕の目の前にあったものは、部屋に閉じこもり、親に与えられた娯楽で膨大な暇を潰すだけの人生だった。あとは、死なないために親が用意した食事を腹に詰め、腹に詰めたものを排泄物に変えてトイレに流すくらいしかしていない――本当に。
あと数年もすれば、僕はもう30歳になってしまう。立派な大人だ。いや、到底立派ではないのだが、誰がどう見ても、大人の男だった。
ついこの間、妹が結婚した。
でも、僕は式には出ていない。
一応、招待されはしたのだ。妹が家に帰ってきたときに、数年ぶりにした会話の内容がそれだった。
もちろん、即座に断った。
そんな場でどう振る舞えばいいかわからないし、ふさわしい服も持っていない。
何よりも、どの面下げて――こんなときだけ家族面で、人前に出ることができるのか。
そして、それをわかっていながら、形式的にでも招待をする振りを見せた妹に、腹が立った。
でもさ。
きっと、それが大人なんだ。
もし万が一、ほんと何かの気まぐれで、僕にその気になられたら――家の汚点である僕に式場に来られたら、妹だって迷惑だろう。
人生で最も幸せな場面の一つに僕なんかに同席してほしくないだろう。
だとしても、本当は嫌でも、形式上の招待をしないわけにはいかないのだ。血の繋がった兄なのだから。
それが大人だから。
妹は僕よりも先に大人になったんだ。僕はとっくにあいつの兄貴ではなくなっていたんだ。
そうだ、僕は大人になどなっていない。
大きくなったのは体だけで、中身は子供のままだった。
フブキと出逢った14歳の頃から、僕は成長していない。
フブキがいなくなって何年目かのある日、僕は、部屋から出た。なに、驚くことはない。引きこもりだって、部屋から出ることもある。
便所にはちゃんと行くし(そこまで人間やめてない)、風呂にだって(たまに)入る。
幽霊のような足取りで階段を降りる。
リビングでは母親がソファーに寝そべり、昼間のワイドショーを見ていた。母親は幽霊の気配を感じて、ビクっと体を起こした。
「か、母さん……」
僕から話しかけるのはいつぶりだろうか。僕は密かに決意していたことを話した。
いつまでも待っていたら、駄目だ。
探しに行こう、雪のある景色を。
もう消えてしまって、この世のどこにもいないのかもしれないけれど。
僕はフブキに会いたい。
「――僕、旅に出ようと思うんだ」