がらくたディスプレイ

趣味の小説置き場。どこかで誰かが読んでくれると幸せです。

01-2 /中編『がらくた』

『がらくた #12(最終話)』

#12 トクン……トクン……。 鼓動が響く。 密着したロゼッタの体から、鉄の体に振動が伝わってくる。 人間の心臓の鼓動は、生きた証をその時間その時間に刻みつけるようなものだと思う。 鼓動。 朝も夜も。 夏も冬も。 産まれてからずっと、休むことなく、途切れ…

『がらくた #11』

#11 「ロゼッタ、本当に大丈夫なの?」 パン屋の仕事を休むようになったロゼッタの様子を見に来たエマは、心配そうに言った。 ちなみに、僕の上にはロッキングチェアごとすっぽりと毛布がかけられていた。エマにそれは何かと尋ねられたところ「ゴミよ、ゴミ…

『がらくた #10』

#10 「ねえ、聞いてレオ」 ロゼッタは、家に着くなり僕に話しかけた。 僕はテーブルの上に置かれていた。今の僕は頭部だけなので場所は取らない。ロゼッタは向かい合って椅子に座り、肘をテーブルにつく。それは、お喋り(といっても、ロゼッタが一方的に話…

『がらくた #9』

#9 人は人に依存していかざるを得ない。 それは、いい意味でも悪い意味でもだ。意地悪な人に貶められることもあれば、良い人に救われることもある。エマとの出会いは後者だった。 「良かったら、うちで働いてはどうかしら? ちょうど従業員が辞めたところで…

『がらくた #8』

#8 「いったい、どういうこと!?」 人の往来がある通りで、人目もはばからず、ロゼッタは不満を空中にぶつけた。柵の向こうには海が広がっている。潮騒が嘲笑しているように聞こえた。 「確かにお金はないけれど……」 勢いがなくなる。 通行人から部屋を貸し…

『がらくた #7』

#7 ◇ ベッドの中で朝を迎えるのは初めてのことだった。 隣で寝息をたてていたロゼッタは、窓から差し込んできた朝日を瞼越しに感じ、目を覚ます。 「おはよう、レオ」 僕の存在を確認すると、安心したように囁く。ロゼッタは昨晩、頭部だけになった僕を抱き…

『がらくた #6』

#6 僕はまた、ここに戻ってきた。 森の奥の、村人たちが要らなくなったゴミを捨てていく場所。 ゴミ山は数年前より大きくなっていた。当たり前だ。誰かがゴミを回収しに来ているわけではないので、増える一方なのである。 燃やすでもなく、埋めるでもなく、…

『がらくた #5』

#5 ◇ 「レオとのことはママには内緒よ」 僕は、もう何年も前の日のことを思い出していた。ロゼッタがまだ幼かった頃の話だ。 「私とレオが恋人同士であることをママが知ったら、きっと私とレオを引き離そうとすると思うの」 ロゼッタには悪いが、そうなった…

『がらくた #4』

#4 ロゼッタの母親がずっと僕のことを疎ましく思っていたのは間違いない。 もう何年も前、ロゼッタが僕をゴミ捨て場から拾ってきて家に置いておくと言い出したときは、すぐにその変な遊びは飽きてしまう、飽きたら捨てればいいと考えていただろう。が、いつ…

『がらくた #3』

#3 新しい家での日々が始まった。人型をしているというだけのガラクタに日々も何もあったものかと思われるかもしれないが、ゴミ捨て場と比べると、気分がまるで違う。 それに、たとえ一方的だったとしても、話しかけてくれる人がいるというのは、嬉しいこと…

『がらくた #2』

#2 30分ほど女の子に引きずられたあと、彼女の家に到着した。大きな三角屋根が特徴的な家だ。 女な子は体重を後ろにかけながら木製の扉を引っ張った。ぎいと重苦しい音をたてて扉が開く。 「どーぞ」 女の子はあくまで話しかける。物言わぬ、このガラクタに…

全12話『がらくた #1』

#1 ある日、僕は森の奥に連れてこられた。 その一画には、ガラクタの山ができていた。壊れた家具や鉄くずなど、役に立たなそうなものが山積している。ここはきっとガラクタを置いておく場所なのだろう。 村の青年たちは、協力して僕を抱え、山の上に放った。…