がらくたディスプレイ

趣味の小説置き場。どこかで誰かが読んでくれると幸せです。

『未観測Heroines #15』 小説/長編

 

 #15

 

「つまり、俺がお前に首を喰いちぎられて過去に戻るたびに、胡桃の性格が入れ替わるということだな」

 と言うと、俺のベッドの上を我が物顔で占拠する猫耳女は、不服そうな顔を浮かべた。

 あれから。

 11月22日の朝にタイムリープした俺は、いつものように胡桃と登校した。胡桃は俺のよく俺の知る、小さな頃から一緒に過ごしてきた胡桃だった。

 失って、もう戻らないと思っていた日常。

 でも、そこにもう純粋な喜びはない。このあとの彼女の運命を知っているし、3度目の11月22日にどこか、作りもののような空虚さを感じていた。

 学校で都合3度目の授業受け、そして帰宅。夕食を終え、自分の部屋に戻るとだんだんと部屋に馴染みつつあるタマの姿があった。

「そういうと私が凶悪みたいにゃ。自分で死ぬのも酷だろうから、私が殺してあげてるだけにゃ。それに、なるべく痛くないようにしているつもりにゃ」

「痛かったよ」

「なるべく――にゃ」

 確かに、一瞬激痛はするものの、そのあとはすっと眠くなって、気がついたら、このベッドで目覚めている――11月22日の朝に、目覚めている。

「で、話を戻すが、過去に戻るたびに胡桃の性格が入れ替わっていくということでいいんだな」

「言えないにゃ」 

「うっせえ、猫! 哺乳類のくせに!」

「五可も立派な哺乳類にゃ!」

「そりゃそうだ」

「前にも言ったが、これは五可が真相を突きとめるゲームだから、私から確信に触れることは言えないようになってるにゃ」

「言ったら?」

「大変なことになるにゃ」

 不敵に笑うタマ。

「大変なことって?」

「まあ、無事ではすまないにゃ。五体満足でいられると思うにゃ」

「……わかった。じゃあ絶対言うな。ていうか、そのルールって誰が決めてるんだ?」

「神様にゃ。私は神様との契約によってここにいるし、このゲームを設計したのは神様にゃ」

「ふーん。まあ正直、人の生き死にが関わることでゲームっていう言い方もどうかと思うけど、まあ胡桃を救うチャンスをくれたのはありがたいな」

「……」

「何だよその間は」

「いや、五可は知らなくていいことにゃ」

 そう言ってバリバリとせんべいを頬張るタマ。俺と両親が居間で夕食を取っているときに、キッチンからくすねてきたのだろうか。確か、俺以外にはタマの姿は見えないと言っていたっけ。

「時間が戻れば食べたおせんべいも復活するから便利なものにゃバリバリ――」

「だから、人のベッドの上で食ってんじゃねえ! 食べカスが飛んでんだよ!」

「大丈夫にゃ。また、過去に戻れば綺麗になるにゃ」

「今日! ここで寝るんだよ!」

 さて、タマが使えない猫だと分かったところで、俺はこれからの行動を考えなければならない。

「ほっといたら、また胡桃は死んでしまうんだよな。それも言えないのか?」

「いや、それは、このゲームの前提にゃ。どうせ数回繰り返せばわかることにゃ。無駄は省くにゃ」

「それは助かる。無駄は嫌いだからな」

「便宜的に、今の胡桃――にこにこのほうを胡桃Aとしよう。胡桃Aは明日11月23日水曜日、午後5時30分に死亡する。そして、前回のツンツンの胡桃を胡桃Bとする。胡桃Bは11月26日土曜日、午前11時45分に死亡する。これは、このゲームの前提にゃ」

「とにかく、俺は胡桃の死を阻止すればいいんだな。死に方って決まっているのか?」

「決まってないにゃ。毎回同じとは限らないにゃ。ただ、パターンは限られてくるにゃ」

「何から守ればいいのかもわからないということか」

「そうだにゃ。あと補足説明にゃ。五可が胡桃の死を阻止できなかった場合の話にゃ」

「ああ」

 今から失敗したときのことを考えるのはどうかと思うが、大事なことだ。

「何度でも過去に戻れるにゃ。戻る先は4日前の朝にゃ」

「胡桃が死ぬ予定の日時の前に、俺が死んで過去に戻ることはできるのか」

「できるにゃ。ただし、一度過去に戻るとそこから私の充電に丸一日かかるにゃ」

「ふーん。まあ、何にせよ、とりあえずやるべきことは、明日、胡桃をデートに誘うことだな」

 それ自体は、胡桃Bよりは簡単なはずだ。そもそも最初の事故は胡桃とのデート中だったわけだから。

 あれ? 何か忘れてる気がする。

「じゃあさっそく胡桃に連絡だ。あれ? スマホが見当たらないな」

「鞄の中にゃ。さっきバイブレーションしていたぞ」

「言えよ」

 学校から帰ってきてから鞄に入れっぱなしだったか。

「――あ」

 画面を開くと、胡桃からの着信履歴が表示された。

 そうだ、思い出した。

 今日は胡桃に近所の公園に呼び出されて、そのまま告白されてしまう日だった。俺の人生の中でも一大事件だったはずだが、その後に起こったことが激動すぎて、こう言っては何だが、印象が薄れてしまった感がある。告白されて――付き合うことになって、そして、そのまま、明日のデートの約束をするという流れだったが、まだ間に合うはずだ。画面をタップして折り返す。

「はい、私だよ」

 胡桃の声。

 その声はクリアで、そして近くで聞こえた気がした。

 



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 振り返るとなぜか部屋のドアが開いていて、スマホを手にした胡桃が立っていた。

 無表情だった。

 胡桃Bみたいに。

 

「おばさんが、あがっていいって言ったから……五可電話出なくて、私もどうしても話したいことがあったし――それで、五可……聞いてもいいのかな。答えにくかったら答えなくてもいいんだけど……その子はいったい誰なのかな?」