がらくたディスプレイ

趣味の小説置き場。どこかで誰かが読んでくれると幸せです。

作者が自分で考察してみた〜『太陽と冬の少女』②

 

 前回に引続き、自分で書いた小説を自分で考察してみようという、不思議なコーナーの第2回です。

 

sokohakage.hatenablog.com

 

 

 

○「フブキ」は実在するのか

 

 旅に出た太陽君は、ついに雪の降る街まで辿り着きます。そして、フブキを探して街を彷徨いますが見つかりません。夕方になり、ふらふらになった彼は、ある公園で行き倒れます。

 彼は思いました。彼女の存在自体が奇跡だった。いや――

「いっそ、彼女の存在自体が、僕の妄想だったんじゃないかとすら思えてくる」

 

 ここが、終盤に織り込まれたトリックです。この考え自体、主人公は何となく思っただけで、少年の頃から会っていた女の子がまさか自分の妄想だなんて、本気では思っていません。

 しかし、僕たち外側から眺めている人間は、これが物語だと知っています。

「女の子は孤独な主人公の妄想で、でもその妄想のおかげで、部屋から脱出して、旅をして成長した」そういうストーリーがあり得ると、可能性を考えることができます。

 実は似た話を以前やったことがあります。

ネタバレになりますが、誰も気にしてないと思うので、少しその小説――『空想ヒロイン』について触れます。

 この話には「メノウ」という女の子が出てきます。

 冴えない男である主人公が、趣味絵としてノートに描いた女の子が、実体化して彼の前に現れたのが「メノウ」――だと彼は思っているのだが、実はそれは彼の妄想だった、という話です。

 同じように、「フブキ」も妄想だったのではないかと考えることができます。

 だって、フブキと会うときは、いつも一人きりだった。じゃあ、彼女に貰った雪だるまは? 母親が冷蔵庫にあるのを確認している。でもそれは、主人公がベランダの雪を集めて作ったものを、女の子に貰ったと思い込んでいるだけかもしれない。

 太陽君は行き倒れた公園でフブキと再会します。そして一緒に雪遊びをして、別れるという展開になりますが、ここも怪しい。

 フブキは太陽君が意識を失いかけたときに、ひょっこり現れますが、これはフブキとの再会のシーンが太陽君の夢であることを示しているのでは? だから、フブキと別れたあとの続くシーンでは、「気がついたらベンチで寝ていて、目が覚めた」のではないか。

 この終盤のシーンは、そういう問いの提示になっています。主人公の知らないところで、別のストーリーが進行している状態です。

 

○問いに対するアンサー

 

 ベンチで寝ていた太陽君は、ツインテールの少女に起こされます。そして、軽く会話を交わし、自転車に跨って去ろうとする彼女に聞きます。

「奇跡って、あると思う?」

 これは、先程の問いですね。主人公は「フブキは妄想ではないか」と考えているわけではありませんが、無意識下で感じていたことが、ふと口をついたのでしょう。

 そして、少女はこう答えます。

「奇跡はあるよ」と。

 つまり、フブキは目の前からはいなくなってしまったけれど、妄想とかじゃなく、確かに存在していたと言ってくれているのですね。

 しかし、通りすがりの人が適当に答えただけかもしれないことに意味なんてあるのか。でも、そうじゃありません。実は彼女の登場にはもう少し理由があります。

 

○少女の正体

 

 結論から言いましょう。

 奇跡があると答えてくれた少女の正体は、『空想ヒロイン』の「メノウ」です。

 ここで、おや? と思うはずです。「メノウ」は冴えない男の妄想の産物であると先程説明したばかりです。例えば、『空想ヒロイン』では、メノウがコンビニでプリンを買ってくるというエピソードがあります。メノウは、非実在だが、実際に冷蔵庫にはプリンが入っている。それは、単純に主人公が自転車を漕いでコンビニで買ってきて、メノウがそれを買ってきた「ことにしている」のです。

 『太陽と冬の少女』に戻ります。太陽君の目には冴えない男ではなく、ちゃんと女の子に見えている。というか女の子です。これはどういうことか。

 それは、『太陽と冬の少女』の世界が、ファンタジーがあり得る世界であることを示しています。

 『空想ヒロイン』は、現実の世界の話でした。なので現実的に解釈可能な、「男の妄想」というような説明がされました。

 しかし、『太陽と冬の少女』はファンタジーの世界――ノートにサラサラっと描いた可愛い女の子のイラストが実体化するような、昔作った雪だるまが、女の子の姿になって恩返しに来てくれるような、そんな世界なのです。

 この世界では「メノウ」は存在することができます。そんな彼女だから、「奇跡はある」ということに意味がありました。

 

○存在の証明

 

 これはおまけというか、駄目押しというか、最後のほうの妹との会話の回想シーンです。妹は「あの、たまに来てた女の子ね」と

きちんとフブキの存在を示しています。

 主人公は少女との密会のことは、家族の誰も知らないと考えていましたが、きちんと年頃の妹は気付いていたようです。

 本来は母親にこのセリフを言わせようと考えていたのですが、さすがに気付いていたのに、若い男の家に少女が通っている状況を注意しないのはどうかと思いました。中盤で妹出しといて良かったと思った瞬間でした。

 ちなみに、本編では明らかにされていませんが、彼女の名前は「ルナ」と言います。

 


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 意外と文字数が増えているこのコーナー。またまた、次回に続きます。さすがに次回で最後です。