がらくたディスプレイ

趣味の小説置き場。どこかで誰かが読んでくれると幸せです。

『未観測Heroines #57』 /小説/長編

 

♯57

 

 

「お前がいいって、それは、つまり……どういうことにゃ?」

 首を傾げる猫耳少女。いまいち伝わっていないらしい。

「いや、だから、誰を選ぶかって話だったろ。正直、どの選択肢もピンと来なかったんだ」

「そうなのか?」

 あんなに大好きだった幼馴染。何度も失って、失い続けた結果、あろうことか、大事に思えなくなってしまっていた。まさか、こんな結末になろうとは――。

「お前といると楽しいしさ」

「私も五可と一緒にいると楽しいにゃ」

 伝わらない――いや、これは中途半端に言葉を濁している俺が悪いか。くそ。

「だから、俺は、お前のことが好きだって言ってんだよ、猫!」

 だから、はっきり言う。解釈のしようがないほどはっきりと――伝える。

「な、な、な、何を言ってるにゃ? 人間!」

「好きなんだよ、女として!」

「にゃにゃ。冗談よすにゃ。五可は私をからかっているにゃ」

「いや、マジで言ってる」

 

 

 

 


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 そこまで言って、ようやく。

 真剣さが伝わったようだった。

「マジ……なのか。にゃんにゃん。急展開すぎるにゃ」

「まあ、俺は結構前からそういう目で見てたけどな、お前のこと」

「何だか言い方がやらしいにゃ。ちょっと待て五可。私は今、とても混乱してる、ので、ちょっと考えさせてほしい、5分ほど」

 そして、うんうん唸りながら。腕組みしたり、うろうろしたりして、きっちり5分。

「……うーん。実はな。私もな。そういう気持ちがないわけじゃないぞ。すごく、その……嬉しいにゃ。五可は特別にゃ。でもこの特別は果たして……。だって、五可は人間だし、私は――」

「うっせえ」

 煮えきらない様子のタマを、抱きしめる。

「押しが強いにゃ。押し切られそうにゃ。困ったにゃ。五可は本当に、それでいいのか? 正直、見来や胡桃とくっついたほうが、五可のためだと思うぞ」

 それは、わかってる。

 普通に。

 普通の。

 人間の女の子と付き合ったほうがいいに決まっている。

 まともに考えればそうだ。

 でもさ。俺の神経はもう、とっくに、まともじゃなくなっているんだよな。

「それに、そもそも、私はすでに死んでる身にゃ。私がいいって言ったって、いつまで一緒にいられるか……」

 それはどきりとする一言。

 しかし、抱きしめる体にはしっかりとした質量があった。今はまだ――

「……消えちまうのか?」

「いや、どうだろう。わかんにゃい」

「わかった。いつまででもいい。その時が来れば受け入れる。いや、無理かもしれないけど、とにかく、その時まででいい。俺と一緒にいてくれ」

 俺の腕の中で、タマは頷いた。

 

 

■2023年11月25日(金)

 


 目覚めたのはぴったり午前7時。いつもどおりの時間。

 違うのは、ふとんの暖かさ。

 自分以外の温もりがあった。

 寝息を立てるタマ。

 頭を撫でると、目が薄く開いた。

「おはよう、タマ」

「にゃ。おはよう、五可」

 微睡みながら姿勢を変えて枕にしがみつく。

「タマ、聞いてくれ」

「ん?」

 本当はもっとあとでいい話かもしれないけど。一晩悩んで、決めたから。それは、ずっと前から、ぼんやり考えていたこと。

「タマを、助けに行こう」

「私はここにいるにゃ」

「子供の頃のタマだよ」

 それだけで、意味は伝わったようだ。言葉を受け入れるように、ゆっくりと瞬きをした。

「それは……よく考えたのか? どのくらいの時間がかかるかとか、そのあとはどうするのかとか、考えたのか?」

「もちろん」

「そこまでして、子供の頃の私を助けることができたとして、今ここにいる私が生き返るわけではないにゃ。すでに私は通常の時間の流れから切り離されているにゃ」

「そういうことじゃない。これは、俺の気持ちの問題だよ」

 タマは目を細めた。

「もちろん。五可がそうしたいなら、私はどこまででも、ついていくにゃ」


 それから、俺とタマの長い旅が始まった。