がらくたディスプレイ

趣味の小説置き場。どこかで誰かが読んでくれると幸せです。

『未観測Heroines #56』 /小説/長編

 


♯56

 


「はあ……永遠の愛……ねえ」

 いまいち、理解しづらい。何を言っているんだ、この猫耳は。

「つまり、五可の選んだ女の子と末永くお幸せに結ばれる券、ゲットにゃ!」

「いや、ぜんぜん展開についていけていないんだけど……じゃあ例えばにゃ――」

「語尾が移ってるにゃ」

「例えば、こっちの世界の綾ノ胡桃を選ぶとしたら、どうなる。俺はB世界で生きていくのか?」

「もちろん、その場合はB世界に移住してもらうことになるにゃ」

「その場合さ、A世界の俺ってどうなるんだ?」

「移住する場合、A世界の五可の最後の行動は、『B世界での死の影響で死ぬ』にゃ。そうすれば、B世界で五可が死ぬことはないけど、A世界の五可は死んだままにゃ」

「え、そうなのか?」

「うん。B世界で五可が生き続けたとしても、A世界の五可が生き返ったりしないし、『死ななかった』世界に置き換わるようなこともないにゃ」

「じゃあ例えば、1か月後とかにさ、やっぱりA世界に戻りたいと思っても、無理なわけだ。4日戻ったとしても、すでに体は骨と灰になっているわけだから」

「その場合は、死んだ日の朝まで時間が巻き戻るにゃ」

 今まで、そんなパターンはなかった。考えたこともなかったけど、うまく回避してたんだろうな。きっと。

「でも、その理屈で言ったらさ……」

「どちらかの世界の五可は必ず死ぬことになるにゃ」

「……」

 俺なんかでもさ。

 死んだら辛い思いをする人はいるはずなんだ、きっと。

 父さんや母さん。

 そして、見来。胡桃――はどうだかわからないが。

 一度自殺を試みた身で言うのもなんだが。

 この旅を経て。

 自分の大切な人を何度も失って。

 自分の命が自分だけのものじゃないことがわかった。

「気にすることないと思うけどにゃあ。結局、五可にとっての世界は、五可の観測している世界のことにゃ。感知できない世界なんてないのと同じだろう? それに、本来、世界の可能性なんて、AとBどころの話じゃない、CもDももっともっと無限にあるにゃ。そんな『もしも』の世界をいちいち気にして生きてる人なんていないにゃ」

 どちらかの世界を選ぶということは、どちらかの世界を捨てるということ。

 けど、俺はすでにB世界とも、関わってしまっている。A世界のほうだって、俺が今まで生きてきた世界だ。どちらも、『ないもの』とは思えない。とはいえ――

「考えても、どうこうならないんだろ?」

「うん。これはルールにゃ」

「なら、そこら辺はいったん気にしないことにして、話を戻そう」

 神様が作ったルールにどうこう言っても始まらない。これも、学習したことだ。

「――つまり、選択肢は見来と胡桃の2人。かけるA世界とB世界の4パターンにゃ」

「なるほど」

「五可の一生を決める重要な問題だから、一応、順番に選択肢を確認していくにゃ。まずは、A世界の綾ノ見来。元々君が好だった幼馴染で、元恋人にゃ」

「俺の主観ではな」

「なんだかんだで元サヤってのも悪くないと思うぞ。私はあいつのことは嫌いだけど。次にB世界の胡桃。つんつんしているが、実は五可のことを憎からず思っていると思うぞ、私は」

「根拠は?」

「勘にゃ」

 野生の勘だった。

「まあ、憎まれる筋合いもないからな。ただ、B世界の胡桃とってのは、あんまり想像できないな。だいたいあいつ、恋愛とか興味ないだろ」

 たぶん。

 とある世界では付き合うことになった気もするが、今にして思えばあれは奇跡回だったんだな。

「そこはもう、神様の力で、五可にメロメロになるにゃん」

「それは、少し見てみたい気もするな」

「次に、B世界の綾ノ見来。知っての通り、純粋で良い子にゃ」

「A世界の見来とも、やっぱり少し雰囲気が違うんだよな」

「育つ環境が変われば、人格にも影響があるにゃ。ちなみに、私の推しにゃ。A世界の見来みたいに、性格がひん曲がってないからにゃ」

「うーん。そう言われると、一番順当な気もしてきたぞ」

「そして、最後の選択肢。まだ会ったことのないA世界の綾ノ胡桃にゃ。母方に引き取られ、山奥で暮らしているはずにゃ。ワンチャンいってみるか?」

「大穴だな」

「さあ、選ぶにゃ。どの『ヒロイン』と末永く幸せになる?」

「って、言われてもなあ」

 正直、ピンときていない。

 頭の中を整理する。

 これまでのこと。

 俺の感情。気持ち。

 いろいろ考える。

 いろいろ……

「例えば、今の四人以外の選択肢は有りえないのか?」

「四人以外?」

「例えばだけど、テレビに出てるアイドルと結婚したいって言ったら叶うのか?」

「ドン引きにゃ」

「例えばだよ」

「うーん。元からそういう契約じゃなかったからな。ちょっと神様と通信して聞いてみるにゃ」

 タマは、目を閉じて、祈るように手を組んだ。

「にゃんにゃんにゃんにゃん」

「通信って、そんななんだ……」

「来たにゃ。やっぱり無理にゃ、神様は四人以外の心は一ミリだって動かさないらしい」

「そっか……」

 それを聞いて安心した。

 なら、気兼ねなく選べる。

「別に今すぐに決めなくてもいいぞ」

「いや、答えは出てるよ」

「ふーん、そっか。なら聞くにゃ。どろろろろ」

 再び下手なドラムロールの真似。

「お前がいい」

「にゃ?」

「俺はタマ、お前と一緒に幸せになりたい」