『未観測Heroines #50』 /小説/長編
♯50
「そう、僕が死んだ理由だ。見来は事故死で構わないさ。事故で命を落とすなんて日常茶飯事のことだ。この世界ではね。でも、数日のうちに立て続けとなると、どうだろう。遠く離れた2人が、つられて事故に遭うなんて、そんな奇妙なことがあるものか。量子もつれじゃあるまいし。少なくとも僕のほうには、必然性があるべきだと思うけどね」
「ああ、そうだな。リョウシモツレみたいで、気持ち悪いよな」
聞き覚えのない単語だったが、何だそれみたいに返すと、話が長くなる予感がしたので、やめておく。
「やけに軽い反応だね。僕にとってはわりと重要な問題なんだけどね」
「いや実は、見来のほうを解決すれば、君のほうも自動的に解決するんじゃないかと思ってるんだ」
「それはなぜ?」
「必然性つて、つまり、原因があって結果があるということだよな」
「まあ、間違っちゃいない」
「見来の死の因果の流れが、B世界からA世界であるなら、君はその逆。A世界の胡桃の死の影響を受けて、こちらの世界の君は死ぬことになる。俺がこれまで見てきた君の理不尽な死に様からみるにな」
「電車に轢かれてバラバラ。あとは……屋上から転落して芋虫のように地面を這いつくばって死んだんだっけ?」
「俺は芋虫だなんて言ってない」
「いや、さっきの話――僕の死に様に関する君の描写に悪意を感じたものでね」
「……話を戻そう。胡桃と見来の死が一連のものだとしたら、やはり、胡桃の死の原因は、先に起こった見来の死と捉えるべきだろう。あまり、考えたくないことだけど、もしかして、胡桃、君は――」
安直だけど、十分あり得る話だ。
だって以前、言ってたもの。
「――君は、自殺したんじゃないのか?」
「自殺? 僕が? 面白いね。超面白い」
と、胡桃は酷く平坦な口調で言った。
「もちろんこれは、別世界で起こったかもしれない出来事だ。だから、想像で、答えてほしい」
「見来の死を知った僕が、自ら命を断つかって?」
「そうすれば、理屈に合うというだけで、実際はそんなに簡単なものじゃないことはわかっている。でも――」
「君はしたんだろう?」
「……」
それは、もう、ずっと昔の事に思えた。若気の至りというか。幼馴染が死んで自暴自棄になった、まだ人の心があった頃の俺。正直――もう、その時の気持ちは思い出せない。
「僕たちはそれはそれは仲のいい姉妹だった」
と、胡桃は昔話を始めるように言った。
「?」
「別に感動的なストーリーがあるってわけじゃないさ。でもここで僕からもひとつ、種明かしをしておこう。この髪留め――」
机の上に無造作に置かれていた、星型の飾りの付いた髪留め、それを頭に付ける。
こちらの世界の胡桃のトレードマーク――胡桃のキャラクターには少し合わない、子供っぽいデザイン。
「これはね、子供の頃、あの子とペアで持っていたものなんだ。僕らはこれを、とても気に入っていた。ほら、双子と言えば星だろう?」
「そうなのか?」
「そんなふうに思っていたんだ、子供の頃の僕たちは。お揃いで持っているとが、絆の証だった。でも、あるときあの子はそれをなくしてしまった」
「あ――」
「そう、君たちが埋めてしまったんだ。僕は、珍しく怒ったよ。なぜ、僕たちの絆を捨ててしまったんだってね。それ以来、あてつけのように、ずっと身に付けている。離れ離れになった今でも。何年経っても――」
「そうか」
クールで。
まるでロボットのように見えていた彼女の一面。
胡桃は、ふむと腕を組んで数秒、
「……するかもな。彼女と僕は一心同体だ――離れていてもね。何らかの形で、テレビのニュースでもいいし、親から聞いたでもいい。それが非業の死であったなら、なおさら、自分だけ生きているのが無性に許せなくなる――かもしれない」
そう、答えた。
つまり、一連の流れで言うと、こういうことだ。
B世界11月23日。未来が何らかの原因で死亡。
次に、A世界11月23日。B世界の影響を受けて見来が死亡する――俺が最初に遭遇したのはこの部分だ。
次に、A世界11月26日、見来の死を悲観して胡桃が自殺する。
次に、B世界11月26日。A世界の影響を受けて胡桃が死亡する。
これなら、偶然は1つ、最初の見来の死だけだ。
これがこのゲームのからくり。
神様の――いや、違った、なんだっけ?
まあ、いいや。悪魔でも、怪物でも、何でも同じだ。
俺から言えることはひとつだけ。
「くそったれめ!!」