がらくたディスプレイ

趣味の小説置き場。どこかで誰かが読んでくれると幸せです。

『未観測Heroines #42』 /小説/長編


♯42

 

 推理可能――と。

 当ゲームの案内人は、そう宣言した。

 そして、どかっと、ベッドの上に座りなおす。居心地が良い自分のベッドの上は占領されてしまったので、仕方なく机のほうの椅子に腰をおろす。

「これまで得た情報で、君はもう真実に辿り着くことができるにゃ」

「そう……なのか?」

 これまでの出来事を思い返してみるが、頭の中をグルグルと回り始め、すぐにカオスとなる。5秒もしないうちに、俺は頭を抱えた。

「駄目だ。わからない……」

 もともと、そんなに考えるのが好きじゃないんだよな。成績も中の中あたりだし。まあ、そんな俺に勉強を頼ってくる胡桃は何なのかって話だが。

「五可はいつの間にか、考えるのをやめてしまったにゃ。少しは頑張るにゃ。私も手伝うから」

「手伝う……? それは……いいんだっけ?」

 そもそもの話。本来ホスト側であるタマは、謎解きの部分で協力できない。だって答えを知ってるんだもの。

 だから、彼女はこれまで一貫して傍観者に徹していたし、そうなるように予防線としてのルールがあったはずだ。

「直接的に答えに繋がることを聞いてしまっまたら、何かペナルティがあるみたいなこと言ってなかったっけ?」

 無事じゃ済まない――とかなんとか。テレビのバラエティ番組で見るような罰ゲームが脳裏に浮かんだが、そんなものじゃ済まないだろう。これまでの俺と胡桃に対する仕打ちを考えても、コンプライアンスとか通用しないことは明らかだ。

「そうにゃ。でも、今の行き詰まった状況よりマシだろ。たけど、当然そのままの答えを言うことはできないにゃ。そんなことをすれば、下手すれば存在ごと消し飛んでしまうかもしれないにゃ」

「ソンザイゴトケシトブ? おいおい、大げさだな、漫画やゲームじゃあるまいし」

 と言いながら、戦慄は否めない。

「マジにゃ。だから、私にできるのは、あくまで五可の思考の補助だけにゃ」

「……わかった。じゃあ、それ始めてくれ」

「考えるのは、五可自身と言ってるだろ」

「わかった……けど、別に俺だって、今まで何も考えてなかったわけじゃないんだよ」

 タマの言う通り、考えるべきピースが揃っていたとしても、それらが、うまく組み合わさらない。

「じゃあ、これまで五可が考えたことを言ってみるにゃ」

 


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「そうだな……」

 混沌とした情報の中から、とりあえずわかっていることを整理する。

「まず、このゲームには俺と胡桃が子供だった頃と深い関係があるということだな」

「なぜ、そう思う?」

「これだけ繰り返し、しつこく夢という形で昔の記憶を見せられてるんだ。これで、ゲームとは無関係だっていうんなら、流石にフェアじゃない。謎を解くためのヒントだと考えるのが妥当だ」

「にゃんにゃん」

「子供の頃、胡桃の中には、もう一人の胡桃がいた。今、世界は2つに別れていて、ひとつは、もう一人の胡桃が消えてしまった世界。そして、もうひとつは、もう一人の胡桃が『綾ノ胡桃』として成長した世界だ。そして、現在、俺は死ぬたびに4日戻りながら2つの世界を行き来している」

「まあ、これまでのことをまとめるとそうなるにゃ。じゃあ、解決しなければならない問題は何にゃ?」

「もちろん胡桃が死んでしまうことだ。何とか阻止しようとしても避けられない。A世界の胡桃は11月23日午後5時30分。B世界の胡桃は11月26日午前11時45分に死亡する。必ずだ」

 まるで世界が意思を持って辻褄を合わせようとするように――まるで形状記憶されているように、元の形に戻ろうとする。

「そう、君の幼馴染の死を回避することが、このゲームのクリアの要件にゃ」

「あとは、2つの世界の死は連動しているらしいってことも、わかっている」

 これは、俺も回避できない死を体験したことから、わかったことだ。例えばA世界で死ねば、次のB世界で同じ時間に事故死したり、突然死したりした。

 そして、ここにはもう少し複雑なルールがあるようで、A世界の影響でB世界で死んだとすると、そのB世界の死は、次のA世界では影響しないらしい。確かに。でないと、永遠に死が連鎖して、俺はその先の時間に進めなくなってしまう。

「ふむふむぅ。どれも、一見もっともらしい見解だにゃ」

「含みのある言い方だな」

「だって、今の話だと、やっぱり問題は解決しないにゃ。胡桃の死は運命で決定しているので、変えられないという結論になる。でもさ、今の五可の解釈には明らかに変なところがあるにゃ」

「変?」

「もしくは、まだ、足りない情報があるかだにゃ。だって、おかしいだろ。ふたつの世界の死が連動しているなら、なんでA世界とB世界で胡桃が死ぬ日が違うんだ?」

「それは……若干の誤差があるんじゃないか? ほら、午後5時30分の事故を回避しても、また、次の事故が起きたりするじゃないか。その場合、死亡時刻は午後5時31分ということになる」

「それは、ひとつを回避されたから、すぐに補正されたということだろう。そこら辺の自動車が暴走するのに、わざわざ『4日間』も空ける必要ないにゃ」

「……」

「結局、そこにゃ、五可。この日にちのズレを、この違和感を放っておいては先に進めない――にゃ」