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小説『異常で非情な彼らの青春 #26』 話数未定/青春

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【作品紹介】

 殺人鬼を名乗る藤守林檎と、林檎以外の人間に関心がない烏丸深夜の歪んだ関係と異常な日々は続いていく。

 

 

【登場人物】

◯烏丸深夜(からすましんや):藤守林檎以外の他人に関心を持てない高校生。

◯藤守林檎(ふじもりりんご):殺人鬼を自称する女子生徒。一切人と関わろうとせず、学校で浮いている。

◯八重島カナ(やえじまかな):最近、深夜が出会った陽気な女の子。

 

 

 #26

 

 とにかく、林檎が投げて寄越した日記を読んでみるしかないだろう。とは言っても、いつまでも人の家の前――というか、人の家の庭に居るわけにもいかない。深夜は場所を変えることにした。

 どうせ誰もいないので家に帰っても良かったが、少しばかり遠く感じた。近くに公園があるのを思いだし、そこへ向かう。

 住宅地の一角にある公園はさほど広くはなく、古びた遊具と、気持ちばかりのベンチがあるくらいだった。深夜はベンチに腰をおろす。

 何しろ平日だ。人は見あたらなかった。そして、日中、制服を着た男子高校生が、公園のベンチに座っている姿には不審なものがあったが、補導されるほどでもあるまい。

 さっそく、日記を開く。

 

『今日から日記を始めます。この日記帳が幸せな思い出となりますように』

 

 それが、初めの記述。そこからは、普通の小学生っぽい日常が続く。

 クラスでどういう事件が起こったとか、クラスメイトの誰々が面白いことを言ったとか、そういう当たり障りのないことが、書かれていた。

 いかにも普通っぽい――でも、普通じゃない。事前にカナの話を聞いていたからこそ気が付く違和感かもしれないが――

 さまざまな出来事の登場人物の中に、林檎本人はいなかった。いつも、外側からの視点でクラスの日常が描かれていた。本人が登場したものといえば、花壇の花とお喋りしたことくらいだった。

 この頃の林檎は(といっても、今もあまり変わらないかもしれないが)充実した日々を送っていたとは言いがたそうだ。

 この日記を始めた経緯は想像するしかないが、その辺が関係しているのかもしれない。『幸せな思い出』という言い回しから、決意とか、願いのようなものを深夜は感じていた。

 しかし、日記は事実を書くもので、現実はなかなか思うようにはいかなかった。

 そんな中、孤独な少女の前に、八重島カナという同級生の女子が現れた。彼女は林檎から見て、明るくて、社交的で、輝いていた。そんな、素敵な女の子が自分なんかと仲良くしてくれるということが感動的に綴られていた。

 それから、林檎の灰色の日々は色づいていった。荒野のようなところに草が生え、花が咲いた。日記の主役はようやく著者本人になった。

 特にその日のカナとの出来事についての記述は、キラキラと輝きを放っていた。

 ずっと未来まで友達だと約束した日――

 友情の証だと言って、リボンをプレゼントしてもらったこと――

 仮に喧嘩した場合の、仲直りの言葉を決めたこと――

 当初の目的のとおり、日記は幸せな思い出で満たされた。しかし、幸せな日々はいつまでも続かない。

 二学期に入ると、クラスの女子たちによる、林檎への嫌がらせが始まった。学校で行われる集団での嫌がらせ。それをいじめという。

 やめておけばいいのに。林檎は、あったことを、クラスメイトにされた仕打ちを、馬鹿正直に日記に書き残していた。悲しい気持ちや、悔しい気持ちが甦るだろうに。傷口を拡げるだけだろうに。

 そこに頑固さというか、芯の強さのようなものを深夜は感じたが、それと同時に気が付く。あの日の記述だけは『なかった』。

 あの日――

 ずっと友達だという約束を反故にされた日。

 親友に裏切られた日。

 宝物が粉々に壊れた日。

 その日のことだけは、一切触れられていなかった。

 そこから先、林檎の日々は再び色褪せる。花は枯れ、一面、灰色になる。それどころか、黒く、暗く、明けない夜のようになる。それでも、律儀に日記は続いていく。

 


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 林檎とカナとは、話をしなくなった。ときどき目顔を合わせても、お互いすぐに目を逸らすようになった。

 

『わかっている。カナがあんなことを言ってしまったのも、しょうがないことだったんだ』

 

 林檎から仲直りの言葉を言う勇気はなかった。それを言って、それでも仲直りできなければ、本当に終わってしまうから。少し期間を空けた方がよい気もした。

 

『冬休みが終わったら、普通に朝おはようって言おう。あの時もらったリボンを着けて、そして、仲直りの言葉を言うんだ』

 

 新学期、教室にカナの姿はなかった。カナは何も言わずに転校してしまった。仲直りの言葉は使われる機会を失った。

 そして、冬休みが終わっても、いじめは継続された。むしろ攻撃はよりひどく、また、直接的になっていった。ちなみに事の発端となった、寧々とかいう女はもう、関わっていないようだった。興味が失せてしまったのだろう。

 林檎の精神はすり減っていく。嫌がらせによる消耗ももちろんあるが、何より孤独に耐えられなくなっているように感じた。八重島カナという、最良の友人と出会い、そして、失ったから。

 自分の部屋でひとり、ランドセルのキーホルダーを見つめる林檎。それは、カナと仲良くなったきっかけとなったものだ。

 もう、放送が終了してしまったアニメのキャラクターをモチーフにしたものだが、ランドセルに付けっぱなしで外す機会を失っている。

 そのキャラクターは殺人鬼だという設定だ。彼もまた、林檎と同じく孤独だった。

 

『そうだ。自分のことを殺人鬼だと思い込むことにしよう。殺人鬼だから、友達がいないのもしょうがない。嫌われるのも当たり前。そう、思うようにしよう』


 ここから、日記は歪んでいく。

 どこか心に異常が出ているように読み取れる。ほどなくして次のような記述があった。


『今日、不思議なことが起きた。学校の帰りに、自分の影を見ながら歩いていると、その影が突然話しかけてきた。影は言った。「私が友達になってあげる」』



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